オンラインアシスタントサービス『CasterBiz(キャスタービズ)』の提供などでリモートワーク化をあと押しするキャスター。手間のかかる作業だった動画制作が短時間でできる『RICHKA』などのツールを提供するカクテルメイク。ともに2014年設立、「働き方改革」推進の流れを、自らつくりだしている新世代のIT企業です。

そこで今回は、自社内でも先進的な取り組みを行っており、多様な働き方を実現しているキャスター代表の中川さんとカクテルメイク代表の松尾さんとの対談を企画。もともと面識があるというおふたりの「かけあい」は、改革が進まない現状と、いやおうなしにやってくる未来に、鋭く切り込むものになりました!

リモートワーク推進のポイントは「タスクの切り出し」

──まずは、自社で実行している「働き方改革」について、お互いに披露しあっていただきましょうか。

中川さん(以下、敬称略):いいですよ。当社では、場所と時間を自由にしています。場所についてはリモートワーク。時間については、コアタイムのないスーパーフレックス。従業員に出社義務はありません。実際、当社オフィスのすぐ近くに住んでいるのに、出社しない働き方を選んでいる従業員がいますよ。

松尾さん(以下、敬称略):当社でもリモートワークを推進しています。リモートワークのオーソリティーであるキャスターさんと比べたら、ささやかな規模ですが(笑)。自社プロダクトの開発に携わるエンジニアや、顧客企業の動画制作に携わるクリエイターなどが対象です。

──なるほど。でも、プロダクト開発も動画制作もチームとして動くものですよね。リモートワークのメンバーがいると、チームの一体感がそこなわれちゃいそうですが。

松尾いいえ。いまのところ問題なく進められています。むしろ、リモートワークにしたことで、チームとしての動きが円滑になった面もあるんです

たとえば動画制作で、クライアントから修正の指示をもらうとき。これまではリアルなミーティングの場で、感覚的であいまいな要望が出て、それを「はい、わかりました」と受けてしまうことが多かったんです。極端にいえば、「ここらへんがちょっとしっくりこないから、もうちょっとなんとかならないのかねえ」みたいな(笑)。とりあえず修正しても「やっぱり、ちょっと違うな」といわれ、また修正することを繰り返す。そんなムダが生じていました。

でも、いまでは、リモートで作業するクリエイターに修正の指示を出すときは、自社で開発したツールの画面に具体的に入力してもらっているんです。「○分○秒の画面の右端に映っている人影を消して」といった具合です。クリエイターがこのツールを起動して、動画を再生すると、指示のあった時間に、その指示タスクが画面に表示される。これによって、もれなく、正確に修正できます。なんども修正対応するムダが激減しました。

中川そのエピソードは、リモートワークをうまく推進するために大事なことを示しているよね。それは、リモートワーカーがこなすべきタスクを細かく切り分けて明確化しなければいけない、ということ。「タスクの切り出し」をして、そのタスクをこなしているかどうかでワーカーの業務を管理する。これが基本です。

株式会社キャスター 代表取締役 中川さん

「成果」ではなく「結果」で管理する

──リモートワーカーは業務のプロセスを管理できないので、成果で管理する、と。

中川それは違います。プロセスと成果の中間段階、「結果」で管理するべきです。たとえば、いま『ITトレンドスタイル』の記事のための対談をやっているわけですけど、司会者のあなたが記事を書くわけでしょう?

──はい。そうです。

中川執筆する記事で求められる「成果」はなんですか。

──えっと、読者が注目してくれて、記事を読んでくれる──。

中川そうですよね。では、求められる「結果」はなんでしょう。

──「納期までに決められた文字数で、一定の品質が担保された記事原稿を完成させる」でしょうか。

中川その通り。ワーカーは「結果」に対して責任を負うんです。きちんと期待された「結果」を出したのであれば、それが成果につながったかどうかに関係なく、報酬をもらう権利があります。成果につながらなかったとしたら、その責任は、ワーカーに仕事を発注したマネジャーにある。マネジャーは「成果につながる結果はなにか」を考え、その結果を出せるワーカーに仕事を発注する役割があるわけです。ここらへんの考え方を明確にして設計すれば、リモートワークはうまくいきますよ。

松尾確かにそうですね。当社でも同じようなロジックでワークを設計しています。その一つが「タイムチャージ」ですね。リモートワーカーがどこで作業しようと、作業には当社のツールを使っていただき、作業を開始してから終了するまでの時間を分単位で記録していただいています。あらかじめ細かく切り出されているタスクをこなすのに、どのくらいの時間がかかったのか、明らかになるわけです。

同じタスクに1時間かかる人と10分で完了させられる人であれば、後者が時間単価では、極端ですが6倍とまではいかなくとも、数倍は高くていいわけで。このようにすることで「より速く仕事を終わらせよう」と思ってもらえるインセンティブになります。結果的に私たちもひとつのタスクを早く高品質に終わらせてくれる人には、より多くの仕事を発注することができ、生産性も上がっていくわけです。この仕組みをつくるために、当社ではタスクを細かく切り出して、詳細にモニタリングすることにお金と時間をついやしてきました。

「体重計に乗りたがらない」従業員たち

──なるほど。タスクを切り出して、一つひとつのタスクについて、それを完了させるまでの時間を速くしていく。それによって労働生産性が高まっていく。そういうことですね。

中川はい。そこがリモートワークの推進に限らず、「働き方改革」全般を推進していくキーファクターになります。でも、これって一部の従業員にとっては“パンドラの箱”なんですよ。「開けてはならない箱なのに、開けられてしまった」という感覚でしょうね。

松尾ああ、残念ながらそういう実態はありますよね。会社に来ること自体が目的化しているように見える人たちが。自分たちの労働生産性を上げようとしない。というより、「自分たちの労働生産性を知られたくない」という風潮がいまの日本にはあるのかなぁと思います。

中川生産性の向上は、ダイエットにたとえるとわかりやすいかな。ダイエットであれば、まず体重計に乗ってみて、自分がどのくらい太っているか知ることが大事じゃないですか。でも、自分が太っていることを認めたくないので、そもそも体重計に乗ろうとしない人がいる。絶対、ダイエットなんかできないですよね(笑)。

──わかりやすいですね。体重計を拒否する人たちが「働き方改革」の推進に抵抗しているんでしょうね。

松尾そうでしょうね。でも、ITの進化のおかげで、もうブラックボックスにできない。一人ひとりの生産性が丸見えになる時代が来たんです。この時代には、マネジメントの重要性がピックアップされていきます。というのも、「どのタスクを切り出して、誰に渡していくのか」が問われてくるからです。マネジメント側がタスクを適切に言語化してワーカーに渡すことができなければ、生産性は低いまま。マネジメント側が頭を使うシーンが増えていると感じています。

中川事実として、日本の労働生産性は諸外国に比べて低い。その大きな要因はフルタイムでオフィスに出社している人たちの生産性の低さ。この人たちが、自分たちが不相応に高い給料をもらっていることがバレないように、体重計に乗るのを必死で拒否しているんです。

私がそんな「ゆがんだ構造」に気づいたのは、当社を立ち上げる前に、アウトソーシング会社で働いていたころです。たとえば、フルタイムでオフィスに出社している女性と在宅で働いている女性。同じタスクをこなしたとして、収入格差は10倍以上もある。フルタイムなら月給50万円で、在宅なら5万円です。理由はただひとつ、「在宅ワーカーは安くていい」という固定観念。ただそれだけなんです。

ITによって、この固定観念を崩し、ゆがんだ構造を立て直したい。そうして、女性をはじめとした多くの方々に活躍してもらいたい。そう思って、2014年に起業したのです。

「リモートワーク」で優秀な人に出会えた

──松尾さんも、いま「働き方改革」といわれているものを実現したいと思って、起業したんでしょうか。

松尾いいえ。いまの中川さんの話を聞いて「すごいなあ」って(笑)。僕も起業したのは2014年。そのときから「優秀な人と働くためにはどうしたらよいか」と考えていったときに、自然とリモートワークにたどりついたんです。だって、世の中には、僕たちよりおもしろい会社がたくさんある。そのなかで、働き方だけでも特徴を出して人をひきつけようと。

たとえば創業時から一緒にやっているCTOは、基本的に自宅の作業環境でやりとりをしています。別に出社しなくても、仕事はできるってことですよ。それに、優秀な人ほど、地方移住したりとか、リモートワークに魅力を感じている。「働く場所」という制約をなくす。それだけで優秀な人に出会えるんですよ。いま思えば、これも「ゆがんだ構造」があって、そこにうまく入り込めたということなんでしょうね。

カクテルメイク株式会社 代表取締役 松尾さん
実はこの取材の1週間前に左目の手術をしたそう。
療養期間中、図らずも自身でリモートワークをされたらしいのですが、
「普段から慣れている分、意外と問題はなかった」とのこと。

5Gの登場で「出社不要」が当然の世界に

──「ゆがんだ構造」が解消された後、どんな未来が訪れるのでしょうか。

中川そうですねえ。たとえば「出社カフェ」がオープンしているかもしれませんよ(笑)。お客はスーツ着用で、定時に来店して、定時に店を出ないといけない。テーブルやイスはいま、オフィスにあるようなもので。そういうのが「おお、なつかしい。昭和の香りがする」みたいにウケている。つまり、それぐらい、「出社」というものがありえない未来になっているでしょう。

松尾それ、最高ですね。同じノリで、「満員電車コースター」とか(笑)。「あのなつかしい、満員電車に乗っている感覚を体験できます!」みたいな(笑)。まぁ冗談ですが、いつか本当にそういうものが過去のものになる可能性しかないですよね。

でも、働き方改革にうしろむきな会社があるとすれば、「そんなバカみたいな話」と笑うよりも、一度そんな未来を本気で想像してみるのもいいかもしれません。もう、そんな未来が見えるところまで来ているのだと。だって通信規格の5Gが普及するのはもうすぐでしょう。そうなったら、これまでのWeb会議とかでボトルネックになっていた通信の遅延問題が解消される。「Web会議をやっているぞ」という感覚がなくなるでしょう。一気にリモートワークが進み、「出社不要」の働き方が普通になるんです。

──もう、いまあるテクノロジーで実現できてしまう「未来」なんですね。

中川ええ。たとえばブロックチェーン。仮想通貨のために発明されたテクノロジーですが、人材の価値を記録するのにも応用できます。タスクの細分化が進み、一人ひとりの人材ごとにそのタスクの生産性が秒単位で記録される。ブロックチェーンだから改変できない。その生産性をみて、AIが仕事を割り振る。そんな未来像が予想できます。あるタスクをこなすのに、グローバルでいちばん費用対効果の高い人材だけに仕事が回る。

リモートワークがなかなか進まない理由のひとつに、仕事を発注する側のワーカーへの「信頼」が不足していることがあります。ひらたくいえば、「オフィスにいないから、ちゃんと仕事していないんじゃないか」というわけです。そういう不信感も、過去の実績がブロックチェーンで全部記録されていれば、払しょくされる。当社ではまだブロックチェーンは導入していませんが、過去の実績をもとにタスクをこなす能力をおしはかっています。

働き方改革なしでは生き残れない

──しかし、なかなかキャスターさんのように思い切ることができず、「働き方改革」の重要性は理解しているものの、実行に二の足を踏んでいる企業が多いですよね。

中川厳しいことをいいますが、「そんなこといってないで、やるしかないですよ」と。いまは、文明開化が始まったところ。かたくなに新しい文明を拒否して、いまだに江戸時代の感覚でやっている組織と、「文明開化したんだ! さぁ、なにをしよう?」と考えられる新しい組織。勝負は明らかです。変化できなければ、新しい組織に確実に食われます。既存の組織が切り崩されるスピードは、想像をはるかに超えてきますよ。

松尾同感です。私たちより下の世代は、ほとんど無自覚に新しい技術を取り入れています。グローバル化や技術革新がより進展するなかで、もはや、「働き方改革」に取り組まない理由はないでしょう。新しい仕組みをつくろうとしても膨大な時間がかかるかもしれませんが、まずは実行しないと。そうして「遠隔にいても問題ないじゃないか」と体感することが重要。そのうえで、自社にないものは外部から導入していくのが王道だと思います。

──なるほど。おふたりのお話を聞いて、すでに「出社」や「満員電車」がエンターテインメントになる時代が見えているのに、いまだに体重計に乗ることを拒否して、改革に抵抗している企業が多い現状がよくわかりました。これ以上なにもしなければどんどん置いていかれる、そんな危機感をもってほしいですね。本日はありがとうございました!

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