社内稟議の電子化とは?基本と背景を解説
稟議書の電子化とは、これまで紙で運用していた稟議の申請・承認・保管といった一連の業務を、システム上で効率的に行えるようにする取り組みです。特にワークフローシステムを導入することで、稟議書の作成から承認までをスムーズに進められ、業務のスピードアップやガバナンス強化に直結します。
稟議書とは?役割と紙運用の課題
稟議書とは、現場の担当者が自らの裁量で決定できない事項について、上長や関係部門の承認を得るために提出する書類のことです。例えば高額な備品の購入、人事異動、業務委託など、企業にとって重要な意思決定を行う場面で使用されます。
紙の稟議書は、「起案 → 印刷 → 押印 → 回覧 → 保管」というアナログな手順をたどるのが一般的でした。しかしこの運用では、書類の作成や配布に時間がかかるうえ、承認の進捗が可視化できないといった課題がありました。
こうした社内稟議の運用には時間と労力がかかり、特に組織が大きくなるほど申請・承認のフローが複雑化しやすくなります。特に、関係者が複数いる場合や地理的に離れている場合、承認のために郵送や社内便を利用せざるを得ず、決裁までに数日〜数週間かかることも少なくありません。また、承認ルートにミスがあると最初からやり直しになることもあり、非効率さが目立ちます。
稟議書の役割や必要性についてさらに知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。稟議と決裁・起案の違いについてもわかりやすく解説しています。
稟議書の電子化が注目されている背景
稟議書の電子化が進んでいる背景には、業務効率化ニーズだけでなく、国の法改正やデジタル化政策の後押しもあります。
代表的な例が、2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法(電帳法)です。この改正により、国税関係書類の電子保存が認められ、紙の原本が不要となりました。稟議書も対象書類の一つであり、一定の要件を満たせば、デジタルデータでの保管が可能となったのです。
また、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を通じて、行政手続きや企業活動のDXを強力に推進しています。2025年を目標に「デジタル社会基盤の整備」が進められており、企業も内部業務のデジタル化が求められる時代になりました。
これにより、稟議書の電子化は、業務改善だけでなく法令遵守や社会的要請にも対応できる手段として、多くの企業で導入が加速しています。稟議業務を電子化することで、煩雑な紙の運用から脱却し、効率化・迅速化・セキュリティ強化を同時に実現できます。
参考:電子帳簿保存法が改正されました|国税庁
参考:デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁
稟議書の電子化はワークフローシステムで簡単に実現できる
稟議書の電子化を実現するには、ワークフローシステムの導入が最も効果的です。申請から承認、決裁までの一連のプロセスをすべてシステム上で完結できるため、紙の稟議書にありがちな「印刷・回覧・捺印・保管」といった手間が不要になります。
例えば、申請者はあらかじめ設定されたテンプレートに沿って稟議書を作成し、システム上で送信するだけで済みます。承認者にはリアルタイムで通知が届き、電子印鑑または承認ボタンでワンクリック承認が可能。承認ルートは自動で回覧されるため、特定の担当者で滞るリスクも軽減されます。
さらに、最近主流のクラウド型ワークフローシステムなら、初期費用や専用サーバも不要で、短期間かつ低コストでの導入が可能です。Excelで作っていた稟議書フォーマットを取り込める製品や、スマホ・タブレットからも承認操作ができる製品など、業務にあわせて柔軟に選べます。
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稟議書を電子化する5つのメリット
ここからは、稟議書や社内稟議を電子化することで得られる具体的なメリットを詳しく見ていきましょう。
決裁までがスムーズで、意思決定を迅速化
紙の稟議書では、申請者が適したフォーマットを探し出し、書類を印刷して、承認者のもとへ届けに行く必要がありました。さらに、承認者が一人とは限らず、係長→課長→部長に回付する場合や、購入する物品の額が5万円以上なら3人以上の承認が必要など条件分岐の承認ルートの場合もあります。もし承認者が出張などで長期間不在にしていれば業務フローがストップしてしまい、申請者をはじめとするすべての関係者が待機しなければなりません。
ワークフローシステムで稟議書を電子化することで、こうした課題を解消できます。システム内に申請フォーマットやテンプレートが一元管理されており、検索が容易です。そのうえ、システム上で稟議書を回付するため印刷の必要がありません。稟議内容に応じて適切な承認者のもとへ自動で回覧されるよう、承認ルートを事前に設定しておけるので、書類提出の手間もなくなります。
また、スマホやタブレットに対応した製品なら申請されたタイミングで承認者のもとへ通知が届き、どこからでも承認が行えます。承認の進捗は可視化され、どこで停滞しているのか一目瞭然です。承認遅れや漏れが減り、決裁までスムーズに進むでしょう。
ペーパーレス化によるコスト削減、業務の可視化
稟議書を電子化することで、印刷や紙の保管にかかっていたコストを大幅に削減できます。紙代・印刷代のほか、書類を保管するスペースの管理費、人手による文書管理の手間や工数も不要になります。
さらに、申請や承認のステータスがリアルタイムで可視化されるため、稟議業務のブラックボックス化を防止可能。ワークフローシステムでは、承認ルートが明確に設定され、「誰によって処理が止められているのか」が一目でわかるため、ミスや遅延、差戻しを未然に防ぎやすくなります。
また、システムによっては稟議書の入力項目に不備があるとアラートが出るため、修正対応がしやすく、手戻りも少なくなるでしょう。こうした機能は、現場の業務効率向上と全社的な稟議プロセスの整備に役立ちます。
セキュリティの向上
稟議書の電子化は、企業のセキュリティ体制を大幅に強化します。ワークフローシステムでは、役職や部署に応じて細かなアクセス権限の設定が可能です。これにより、機密性の高い稟議書を特定の人物のみが閲覧できるよう制限を設けられます。また、多くのシステムは高度な暗号化技術を採用しており、データセキュリティの観点からも保護できます。
さらに、システムは詳細なログを記録するため、誰がいつ稟議書を作成、編集、承認したかも正確に追跡可能です。これは内部不正の防止や、万が一情報漏えいが発生した際の調査にも非常に有効です。また、電子化されたデータは定期的にバックアップできるため、紙の稟議書が火災や水害で失われるリスクと比べ、はるかに安全性が高いといえるでしょう。
加えて、電子署名技術を活用することで、稟議書の改ざんを防止し、法的な有効性も担保できます。これは特に重要な契約や大規模な投資案件の稟議において重要な要素となります。このように、電子化によるセキュリティ向上は、企業にとって大きなメリットなのです。
電子署名とはどのようなものなのか、仕組みや暗号技術についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
リモートワーク対応の促進
稟議書の電子化がリモートワークに与える影響は、単に「どこでも申請・承認ができる」という点にとどまりません。まず、自然災害や感染症の流行など、オフィスに出勤できない状況下でも、重要な意思決定プロセスを滞りなく進行できます。これは業務の継続性確保に大きく貢献します。
また、海外拠点との連携が簡単になり、時差を活用した24時間稼働の承認体制も構築可能です。これにより、国際的なビジネス展開をスムーズに進められるようになります。さらに、急な承認依頼にも自宅から対応できるため、柔軟な働き方が可能になります。これは特に育児や介護と仕事の両立を図る従業員にとって、大きなメリットとなるでしょう。
このような柔軟な働き方を提供できる企業として評価されることで、優秀な人材の獲得や維持にも貢献します。特に若い世代の従業員は、こうしたデジタル化された環境を好みがちです。また、リモートワーク時の稟議プロセスをスムーズに進めるために、ビデオ会議システムとの連携機能をもつワークフローシステムも増えています。これにより、対面での根回しや説明が必要な複雑な稟議案件も、リモート環境で効率的に処理できるようになっています。
監査・コンプライアンス対応の強化
稟議書の電子化は、監査対応やコンプライアンス強化の面でも高い効果を発揮します。ワークフローシステムを活用すれば、申請から承認、決裁に至るまでの一連のプロセスがすべて記録され、ログとして自動保存されます。これにより、いつ・誰が・どのような内容で稟議を通したかを正確に把握できるため、内部監査や外部監査での説明責任を果たしやすくなります。
さらに、稟議ルートの適正性や承認基準が明確になることで、ガバナンスの強化にも寄与。不正な決裁や社内ルールに反した稟議処理を防止し、コンプライアンス遵守を支援します。特に上場企業やそのグループ会社では、監査法人のチェックを受ける際にも、電子化された稟議データの整備は信頼性を高める要素となるでしょう。
このように、稟議書の電子化は単なる業務効率化にとどまらず、企業の透明性を高める仕組みとしても大きな意義をもっています。
稟議書を電子化するワークフローシステムについては、以下の記事で詳しく解説しています。最新のシステムを大企業向け・中小企業向けなどに分けて紹介し、それぞれの機能や料金もわかりやすくまとめています。
稟議書を電子化するデメリット・注意点
稟議書の電子化はメリットばかりではありません。ここでは、電子化にあたって注意すべき点を紹介します。
業務フローや社内ルールの見直しが必要
まず、申請や承認のフローをワークフローシステムに反映しなければなりません。稟議内容ごとに申請フォームや承認ルートを設定します。その際、現状の業務フローで問題ないのか検討し、無駄のない最も効率的なフローをシステムに登録しましょう。なお、業務フローの見直しはシステム導入時だけでなく、人事異動や組織変更があれば都度必要です。
また、組織内に新たなシステムを導入するとなれば、当然業務に変更点が出てきます。社内ルールや運用体制を見直し、長期的にシステムを運用し続けられる体制を整えましょう。具体的には、システム導入により稟議までの日数を3日短縮する、というような目標を立てて全員に共有したり、システムの操作方法やエラー時の対処法などをまとめたマニュアルを作ったりします。ベンダーによっては導入初期からコンサルをしてくれるサービスも用意しているので、必要に応じて利用するとよいでしょう。
システム障害リスクへの備えが必要
システム障害のリスクは、稟議書を電子化するうえでの重要な検討事項です。クラウドサービスを利用する場合、サービス提供者の障害により全社的に稟議プロセスが停止する可能性があります。これに対しては、複数のデータセンターを利用するマルチクラウド戦略や、オンプレミスとクラウドのハイブリッド構成を採用するといった対策が考えられます。
また、社内ネットワークやインターネット接続の問題により、システムにアクセスできなくなる可能性もあるでしょう。このリスクを軽減するために、冗長性のあるネットワーク構成や、モバイル回線を用いたバックアップ接続の確保などが重要です。さらに、システムの不具合やウイルス感染によりデータが破損するリスクもあります。定期的なバックアップはもちろん、ポイントインタイムリカバリなどの高度なデータ復旧機能をもつシステムの選択が望ましいでしょう。
システム障害時にも業務を継続できるよう、紙ベースでの一時的な稟議プロセスの手順を定めておくことも重要です。また、定期的な緊急時対応訓練を行い、従業員がこの代替プロセスに慣れておくことも欠かせません。システム導入時には、ベンダーのサポート体制やSLA(品質保証レベル契約)の内容を十分に精査するようにしましょう。
システムの導入や運用にコストがかかる
印刷代や文書管理にかかっていたコストを削減できる一方で、ワークフローシステムの導入・運用にはコストが発生します。特にオンプレミス型のシステムでは、初期費用が高くなる傾向があり、自社内でシステムを稼働させるためメンテナンスにも手間とコストがかかります。
しかし、最近はクラウド型が主流となっており、初期費用が無料の製品や、1ユーザー月額300円程度で利用できるものが増えていて、コストを最小限に抑えられます。以下の記事ではクラウド型のワークフローシステムを紹介しているので、あわせて参考にしてください。
ワークフローシステムの選び方と比較ポイント
稟議書の電子化を検討する際、適切なシステムを選ぶことが欠かせません。次の5つのポイントを押さえて、自社に最適な電子稟議システムを選びましょう。
使いやすさとユーザーインターフェース
システムの使いやすさは、従業員の抵抗を減らし、スムーズな導入を実現する重要な要素です。直感的な操作が可能で、シンプルなユーザーインターフェースをもつシステムを選びましょう。デモや無料トライアルを活用し、実際に使用感を確認することをおすすめします。
カスタマイズ性と柔軟性
企業によって稟議のプロセスや必要な機能は異なります。そのため、自社の業務フローにあわせてカスタマイズできる柔軟性のあるシステムを選ぶことが重要です。承認ルートの設定や申請フォームのカスタマイズなど、細かな調整が可能なシステムが理想的です。
セキュリティ機能
企業の重要な意思決定に関わる稟議書には、高度なセキュリティ対策も欠かせません。アクセス制御、データ暗号化、監査ログなどのセキュリティ機能が充実しているかを確認しましょう。また、クラウド型のシステムを選ぶ場合は、ベンダー側のセキュリティ対策やデータセンターの安全性も重要な判断基準となります。
ほかのシステムとの連携性
電子稟議システムを単独で使用することは稀で、多くの場合、既存の社内システムとの連携が必要になります。例えば、人事システム、会計システム、文書管理システムなどとのスムーズな連携が可能かどうかを確認しましょう。API連携やシングルサインオン(SSO)対応などの機能は、システム選びの重要なポイントです。
サポート体制と将来性
システム導入後のサポート体制も重要な選定基準です。導入時のトレーニングや、運用開始後のテクニカルサポートが充実しているかを確認しましょう。また、システムの将来性も考慮に入れる必要があります。定期的なアップデートやバージョンアップが行われているか、法改正への対応スピードはどれくらいかなども確認すべきポイントです。
これらのポイントを押さえつつ、複数のシステムを比較検討することが大切です。また、同業他社の導入事例なども参考にすると、より適切な選択ができるでしょう。以下のページでは、ワークフローシステムを導入した企業の事例を掲載しています。導入の背景や解決した課題、得られた成果などをまとめているため、自社での活用イメージをつかむ参考になります。
稟議を効率化するためのポイント
稟議を効率化するために行うべきことは、稟議書の電子化や根回しだけではありません。稟議書の作成においてもポイントがあります。
稟議書は承認者を説得するための書類です。そのため、稟議書に十分な情報が詰まっていないといけません。承認者の多くは上層部で、現場の業務を事細かに理解していることは少ないでしょう。業務に直接関わりのない人が見てもわかるように、稟議に至った経緯や稟議内容、金額、日程、メリットなどの必要な情報を漏れなく記載してください。
特にメリットや効果に関しては詳しく書きましょう。例えば購入稟議なら、サービスの導入によって業務に要する日数を10日短縮できるなど、具体的な数値を見せると承認してもらいやすくなります。
以下の記事では、承認されやすい稟議書の書き方や例文を紹介しているので、あわせて参考にしてください。
稟議書を電子化して業務改善とDXを両立しよう
稟議書の電子化は、ワークフローシステムで簡単に行えて、意思決定の迅速化や、ペーパーレス化によるコスト削減、内部統制の強化といったメリットを得られます。一方で、ワークフローシステムの導入にあたって、業務フローや社内ルールの見直しが必要となり、システムの導入や運用にはコストがかかります。
コストやメンテナンスの手間を抑えるには、クラウド型システムの導入がおすすめです。さまざまな特徴をもつワークフローシステムが提供されているため、自社に適したものを導入し電子化を進めましょう。「自社にあうかわからない」「試してみたい」という方は、無料で使える資料比較サービスをご活用ください。
