「近未来、進化したAIを搭載したロボットに、人間の仕事の大半は奪われてしまう」。そんな悲観的な予測が話題になっています。働き方改革を実現する有力な手段として期待されるRPA。ロボットに仕事を任せて、人間はラクをできる──。そう安直に考えてよいのでしょうか。AIを搭載したロボットに人間の仕事を任せていったその先に、どんな未来が待ち受けているのでしょう。

そんな疑問を、楽天技術研究所の代表を務める森さんにぶつけてみました! グローバルで13兆円に迫る流通額を誇る経済圏を築いた楽天。それには、森さん率いる技術研究所の研究成果にもとづくAIやロボティクスなどの最先端のテクノロジーが一役かっています。森さん、よろしくお願いします!

楽天技術研究所 代表 森 正弥さん
(所属・役職は取材当時)

「AIとはなにか」について明確な定義はない

──小説を書いたり、作曲をしたり。最近は「AIがこんなことまで!」という話が次々と出てきます。いま現在、AIはどんなことができるのでしょうか。最先端を教えてください。

うーん、その質問に答える前に、言葉の定義について共通認識をもったほうがいいかもしれませんね。まずは質問です。「AI」をどういう意味だととらえていますか。

──ええっと、“Artificial Intelligence”の略語で、人工知能のことだと…。

はい。でも、実のところ、「AIとはなにか」について明確な定義はないのですよ。

──そうなんですか…!

ええ。仮に、「人間の知能の働きやその能力を模した形でコンピュータが情報処理をおこなうこと」をAIと呼ぶとするなら、「コンピュータがおこなう処理はほぼすべてAIだ」ということさえできます。本来はそのくらい広い概念なのです。みなさんが「AI」と聞いて思い浮かべるのは、いまのコンピュータよりも、もう少し進んだ未来的なもの、SF的なものでしょう。その認識を織り込んだ形で、ざっくりした定義をすると、AIとは「その時々で注目され、流行している超最先端のコンピュータによる情報処理技術」。そう考えるのがいいと思います。

AIによる想定外の回答がすごすぎる

──なるほど。最初に「AIの最先端」についてお聞きしましたが、むしろ「最先端がAI」なんですね。では、いま注目されているAIはなんでしょうか。

たとえばディープラーニング(Deep Learning、深層学習)です。膨大なデータをもとにコンピュータが高度に分析、学習していくものです。2012年に画像認識の分野でディープラーニングの効果が発見されて以降、世界的に注目度が高まり、業界を問わない数々の応用へと試みが広がっています。

──ビジネスでは、どんな場面で応用できるのですか。

たとえばセールスにおけるニーズ予測が考えられます。火災保険を販売するとしましょうか。昔は、ヒトが足をつかってニーズを聞き出していました。営業が一軒一軒、住宅を訪問。会話をしながら、ニーズのありなしを判断していました。大変な手間がかかる方法です。

いまは、デジタルマーケティングの発達により、こうした方法は過去のものになりつつあります。ITを活用すれば、年齢や住所、持ち家か賃貸かといったデータをもとに、ニーズのある確率が高い顧客層を抽出できます。たとえば「ガーデニング用品の購入履歴があり、持ち家か、もしくは持ち家を検討する傾向がある。ゆえに火災保険を購入する可能性が高い」といった具合です。

──それがディープラーニングの成果でしょうか。

いいえ、これはディープラーニングの前の段階の基本的な機械学習で実現されていることです。いままでのIT、つまり基本的な機械学習を使って出してくる回答は、このようにまだ人間の想定の範囲内。「人間が立てた仮説を検証してくれる」というレベルです。これがディープラーニングになると、もはや人間が想像もしていなかった分析結果を出してくることもありえます。たとえばイメージの話ですが、「7月に青いTシャツを買った人は火災保険に関心がある可能性が高い」とか。

──ワケがわかりませんね…。どういう因果関係があるのでしょう。

それは、もはやAIにしかわからないレベルに到達しています。その分析のプロセスには膨大な計算量があり、もう人間の理解力ではそれを追跡できない。結論だけを告げられて、実際に「7月に青いTシャツを買った人」にアプローチしてみると、火災保険に加入したということがありえるわけです。

ディープラーニングの特徴は、分析のために使うデータ量がかつてないほど膨大であることと、そのデータの内容や質の自由度がより高くできること。いままでは禁じ手ともいえた、一見、なんの関係もなさそうな情報でもデータとして投入してみることができる。その結果、人間がまったく予期していなかった分析結果を出してくることもありえるわけです。新規市場の開拓に応用すれば、常識を覆すようなマーケットを創造することもできるでしょう。

AIにイノベーションは起こせるの?

──すごい…。ではいずれ、AIがスタートアップをつくり、新市場を開拓し、新しい価値を世の中にもたらす時代が来るのでしょうか。

そうはならないと思います。AIにイノベーションは起こせない。イノベーションを起こすのは人間なのです。

たとえば少し前、囲碁で最強の棋士といわれる人間にAIが勝ちましたね。AIは「囲碁という枠組み」の中で、膨大な計算量を背景に、局所的・全体的を問わず最適解を見つけ出す。人間を上回っているのはこの「膨大な計算量」という部分。だから計算結果としての「次の一手」が、高い確率で人間よりもすぐれたものになります。仮にそれが人間から見て悪手に見えても、大局を見ると非常にすぐれた手になっており、結果として勝利できる。

でも、それならAIは「囲碁よりもおもしろいゲーム」を考案できるか。といえば、それはムリなのです。

──理由を教えてください。

AIが学習のもとにするデータやルールはすべて過去から現在にかけて、「すでに存在するもの」に限定されるからです。それらをいくら大量に収集して、膨大な計算を重ねようとも、「まったく新しいもの」にはならない。ディープラーニングや最先端の各種機械学習技術を活用すれば、ルールやデータの量や種類を人間の理解の範疇をこえたレベルまでに増やせますが、それらのルールやデータも結局は「すでに存在するもの」だけ。そのため、AIは過去から現在にかけて人によってつくられた「既存の枠組み」の中から出られない。囲碁という既存の枠組みの中での最適解は出せるけれど、「囲碁よりもおもしろい新しいゲーム」という、まったく新しい枠組みを生み出すことはできないのです。

──なるほど。「新しい枠組み」をゼロからつくり出すのは、人間だけにできることなのですね。

ええ。少しくだけた表現をすると、人間の本質は「新しいことにワクワクすること」や「飽きる」こと、それに対して、AIの本質は「淡々と処理すること」や「飽きない」ことだといえます。人間に「同じことをずっと繰り返しなさい」といえば、すぐに飽きてしまいます。違うことをやりたくなる。そしてワクワクする。その「違うこと」を追求する中から、新しいものが生まれてくるわけです。でも、AIは飽きません。「繰り返せ」と命令すれば、24時間365日、文句も言わずに繰り返します。だからこそ、大量のデータを分析し、膨大な計算をこなせる。

AIは「量」を追求する仕事に向いていて、人間は「質」を追求する仕事に向いている。そう言い換えることもできますね。

人間はワクワクする仕事に専念できる

──そうか、「質」を追求する仕事のひとつの最高峰が、ゼロから新しい枠組みをつくり出す「イノベーション」である、ともいえますね。「量」と「質」、それぞれ別のものを追求することで、AIと人間はうまく役割分担できるかも…。森さんが思い描く、人間とAIが共存する理想的な未来はどんな姿でしょう。

イノベーションを生み出すような人間の発想力を、最大限に伸ばしてくれるAI。そのような人間とAIの関係が理想です。たとえば、新商品を人間が考案する。AIは、その商品がリリースされたとき、起こりえる可能性をすべてシミュレーションする。それによって、商品のスペックや販売開始時期、流通方法、宣伝戦略を最適化する。そんな協働がありえます。

──ステキな未来ですね! 人間にとっては飽きてしまう繰り返し業務を機械に任せて、人間はワクワクする仕事に専念する、と。まだAIをフル活用した段階には達していないものの、RPAもそのひとつのあり方といえますね。「ロボットに業務を任せる」ことは世の中の進歩の方向性にあっていることがわかりました。本日はありがとうございました!

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