H.I.S. Hotel Holdings 変なホテル舞浜 東京ベイ マネージャー 長井 超生さん
(所属・役職は取材当時)

大手旅行代理店H.I.S.の子会社「H.I.S. Hotel Holdings」が展開する「変なホテル舞浜 東京ベイ」。「変なホテル」という、とっても変な名称に込められている意味は、「おかしなホテル」ではなく、「変化するホテル」なんだそうです。世の中の動きを先取りするような、大胆なロボット化を推進しているのも、「変化するホテル」ならでは。

フロント係、客室付きコンシェルジュ、清掃係…。ロボットがスタッフとして働くホテルができあがるまでには、人間のスタッフのみなさんの悪戦苦闘があったそうです。ホテルマネージャーの長井さんに、その苦労話をお伺いしました!

※インタビュー前編はコチラ。
ロボットが接客する「変なホテル」支配人に、スタッフの働き方も変なのか聞いてみた(前編)

ホテル成功の立役者はロボット

──ロボットと人間が共存する「変なホテル」。ここに至るまでには、どんな苦労がありましたか。

一つひとつの業務について、「どのようにやるべきか」「どのようにやったらいいのか」をゼロからつくりあげていったことです。私たちのほとんどは宿泊業界の未経験者。そのため、業界の常識に染まっておらず、革新的なアイデアを生み出せる。反面、業界経験者なら当然、知っていることをゼロから勉強していかなければいけない。その点は大変でしたね。

──革新的なアイデアのひとつが、ロボットの導入ですね。

はい。業界未経験だからこそ、できたことでしょうね。現行の法律のもとでは、完全な無人化ホテルは認められません。業界に長くいる人ほど、「人間のスタッフがフロントにいないなんてありえない」と思うでしょう。でも、私たちはそういう常識をそもそも知らない(笑)。法律を守りつつ、ロボットをうまく活用する方法を、手探りでつくりあげていったのです。いまでは業界の方々から「未経験者だからこそ、革新的なことができたんだね」とお褒めの言葉を頂戴するまでになりました。

ただし、未経験者ゆえの悔しい思いもしてきました。「このホテルには、こういう設備はないんでしょうか?」とお客さまからご指摘いただいて、はじめて気づいたことも。それからマーケティング面ですね。「このエリアで、こういう競合ホテルがあって、この時期にはこういう目的で訪問するお客さまが多い」といった知見をもとに、最適な宿泊料金を設定できる経験者がいない。つまり「策士」がいないんですね。世界的なブランドホテルもある舞浜というエリアで戦っていくのに、戦い方がわからなかった。試行錯誤を繰り返すしかありませんでしたね。

──少人数の業界未経験者の方々が、舞浜というホテル激戦区で戦ってこれているのはすごいですね。

そこはロボットの存在が大きいですね。「お客さま対応に人間のスタッフが時間をさかなくてもよいので、マーケティング業務に時間をつかえる」といった場面がたくさんあります。私たちに不足しているものをロボットがおぎなってくれている面は確かにあります。

時短でも、寝心地が良いベッドにこだわる

──業界常識に染まっていないスタッフだったからこそ、革新的なアイデアを導入できた例を、「働き方改革」に関連することで、なにかあげてください。

そうですね…。たとえばベットメイクですね。業界で標準的なベットメイクのやり方というのがあります。でも、私たちはそのあたりの“業界の常識“をけっこう無視していまして。お客さまの寝心地が一定水準以上になることを前提条件として、あとは私たちがやりやすいように、そして時間が短縮できるように、新たなやり方をつくりあげました。

ホテルのスタートアップの時点では、1室あたり何分間でベットメイクを終わらせられるか、ストップウォッチで繰り返し計ってみました。私自身も、タイムを計る側、計られる側でやってみましたよ。1分、ベットメイクが短くなると、100ルームで100分の短縮です。それが2分になれば、200分。業務時間の大きな削減につながるわけです。

ロボットに合わせてベッドのカタチを変える!?

──でも、ロボットに任せられれば、人間のスタッフの方のベッドメイクの業務時間がゼロになりますよね。キレイにベットメイキングするのは、ロボットにはまだ難しいのでしょうか。

まだ難しいです。でも、いずれできるようになると思います。これは私の個人的見解ですが、現状のシーツやベッドの形態だからロボットにできないだけであって、その形態をロボットが対応できるように変えてしまえば、問題ないのではないかと。

──おぉ、なるほど。シーツやベッドのほうをロボットが作業することを前提にして変えてしまう、と。確かに、「掃除機ロボットを使うから家具をなるべく置かない」「食器洗い機を使うから高級な食器は使わない」などのように、機械の能力に合わせるパターンって、日常生活でもありますもんね。

その通りです。たとえば海外の空港のトイレなどでよく見かける、ロール式のタオルがありますよね。あの技術をベッドメイキングに応用できるかもしれません。引き出すと新しいタオルが出てきて、古いタオルはどんどんケースに収まるタイプのもの。それをシーツで、簡単にボタンひとつでシーツが入れ替わるようにしたら、人間のスタッフが介在する必要性はなくなります。

──初期コストはかかりそうですね…。

確かに、最初にそれらを開発した者が高い費用を払うことになります。やがて市場に十分な数が出回れば、低コストになっていく。でも、だからといって、いつもいつも「低コストのものが出てくるまで待とう」という態度でいたら、ほかのホテルとの競争で優位に立つことは難しいでしょう。

もともと変なホテルのコンセプトは、「スマートホテル」です。「スマートは変化する、スマートは進化する」というところからスタートしています。たとえば「空調設備がないのに快適に過ごせる部屋」といった常識を覆すことを実現したい。革新的なものを取り入れることにおいて、先陣を切る存在でありたいですね。

完全無人化ホテルは理想像なのか?

──革新的なアイデアを取り入れていった先の理想形は、完全無人化ホテルなんでしょうか。

うーん。難しいですね。完全に無人化というのは、たとえ法律面がクリアされたとしても、まだ少しハードルが高いかもしれません。私は、ホテルは非日常の空間でなければならないと思っています。一方で、同時に、どこかアットホームな部分もなくてはいけない。

ワクワク感やドキドキ感。それらを求めていらっしゃるお客さまはとても多い。ただ、ワクワク・ドキドキだけだと、落ち着かないホテルになってしまう。落ち着く部分というのは、ロボットだけでは生み出せないのではないでしょうか。ホッとする感覚は人にしか生み出せない気はしています。だから人間のスタッフは残ると思っています。

──確かに、そうですね。でも、自動化される部分は拡大していくんでしょうね。

そう思います。まだ法律面の課題が残っていますが、私個人としての考えでは、チェックイン・チェックアウト業務はなくなってしまえばいいと。支払いのスキームだけしっかりあれば、受付業務は不要。たとえば事前のカード決済を必須にして、決済した画面や発行されたQRコードがそのままルームキーになるといったことが考えられます。

チェックイン・チェックアウトはお客さまにとって、いちばんわずらわしいもの。受付でのやりとりを省略できれば、お客さまの大切な時間を守れる。5年10年のスパンで、法律が改正されて、そういったことがいずれできるようになるのではないかと思います。

▲「変なホテル」の「変な鏡」

「変なホテル」さんのロビーには、「変な鏡」が設置されています! ホテルを出る前に身だしなみをチェックしようと鏡をのぞくと…。えっ! 恐竜のシルエット!? 思わず振り向くけど、背後にはなにもなし。実は鏡に画像や動画を映し出せるんです!
宿泊客にとっては、エンターテインメントとしてだけでなく、ホテルを出て向かう先への地図や天気の情報を呼び出して閲覧するといった、実用的な使い方もできるかも?
※スマートミラー「変な鏡」は株式会社ミラーロイド社による提供となります。

求められるオールマイティーな人材

──ホテルで働く人間のスタッフさんは、いなくならないとしても、自動化される領域が増えてくると、働き方は変わってくるのでしょうか。

変わるでしょうね。ひとつ確実なのは、オールマイティーな人材がより必要とされるようになると思います。一般的なホテルの業務は、フロントデスク、ベルボーイ、コンシェルジュ、客室係などがあります。それぞれの畑で何年間も修行を積み、エキスパートを目指すというのが一般的な形です。

一方、私たちのホテルでは、ひとりのスタッフが、ほとんどすべての領域の業務をこなします。接客をやりつつ、経理など総務に近い業務、設備管理もやる。宿泊料金の設定などマーケティング的な業務も。ひとりのスタッフがオールマイティーにこなさなければなりません。

ひとつの仕事しかできないような働き方は、これからはどんどん削られていくだろうなと考えています。

──以前、星野リゾート代表の星野さんが同じようなことをおっしゃっていました。

あぁ、そうですね。ひとりのスタッフが多くの業務をこなすべきだ、という考え方は共通していると思います。ただ、私たちと星野リゾートさんとは、ホテルとしての路線がまったく違いますね。「どちらが今後生き残っていくのか楽しみだ」と書かれた記事を読んだことがあります(笑)。

星野リゾートさんはフルサービスで、ひとりのスタッフとお客さまとのタッチポイントを増やしていくということを目指していらっしゃるように思います。一方、私たち「変なホテル」はスタッフとお客さまとの接点を減らしていって、かつ、お客さまの満足度を下げないというスタンスでやっています。

──なるほど、確かにどちらが生き残るか、楽しみですね(笑)。最後に、長井さんご自身の今後のキャリア目標について、聞かせてください。

短期の目標では、このホテルの収益を倍増させたいです。これまで戦略的な知識がなかった料金面について、少しは策を練られる状態になったと思いますので、まずはこれからです。

10年〜15年の中期の目標では、いろいろなホテルの運営をやりたいと思っています。それ以降は、生意気ですが、経営的なところに関われたら、と思っています。究極の目標は、新しいホテルブランドの立ち上げ。このホテルに携わるようになってから、ずっとそれを自分の目標として掲げています。

──アイデアはあるのですか。

あります。まだ秘密ですけど(笑)。ヒントとしては、変なホテルとは真逆な路線です。いつか実現できたら、と。


──おぉ、楽しみですね! ぜひ、実現してください。泊まりに行きます(笑)。「ロボットが接客をしているホテル」と聞いて、無機質で非人間的なイメージをもっていたんですが、実は人間のスタッフの方々の熱い想いとひたむきな努力で成り立っていることがわかりました。ホテルマンの働き方は変わっていくけれど、「宿泊するお客さまに楽しんで、くつろいでもらいたい」という情熱は不変ですね! 本日はどうもありがとうございました!

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