「変なホテル」って、ずいぶん変わった名前だなぁ…。そう思いつつ、東京ディズニーランドからほど近い、「変なホテル舞浜 東京ベイ」の建物の中に入ると…。

いきなりティラノサウルスがっ! 実物大の恐竜の上半身のロボットが、うなり声をあげ、身をよじりつつ、お出迎え。


助けを求めてフロントを見ると、ホテルスタッフの制帽をかぶった2体のヴェロキラプトル型ロボットがフロント係を務めている…!?


実際は、お客自身がフロントカウンターの脇にある自動チェックイン・チェックアウト機を操作するので、ラプトルと会話しなくていいみたいです。よかった…っていうか、ホントに“変な”ホテル!

「変なホテル」は、大手旅行代理店H.I.S.の子会社「H.I.S. Hotel Holdings」が展開するホテルブランド。ここ、舞浜のホテルでは、フロント係だけでなく、各客室に配置されたコンシェルジュ係ロボットや、床掃除用ロボット(これは一般に普及している型)、水槽のなかを悠々と泳ぐお魚型の観賞用ロボットなどがいます。

ロボットが従業員として活躍しているホテルで、人間のスタッフはどんな「働き方」をしているのでしょう? ホテルマネージャーの長井さん(ロボットではなく人間の方です。念のため…)にお話を聞きました!

H.I.S. Hotel Holdings 変なホテル舞浜 東京ベイ マネージャー 長井 超生さん
(所属・役職は取材当時)

フロント係も清掃係もロボット。では人間は…?

──まずは、ロボット化のねらいについて、教えてください。

宿泊業界における人手不足を補うことです。もう、ずっと前から言われていることですが、業界全体として人が足りないのです。だから、ロボットで代替できないか、というわけです。

しかも、人手不足はさらに深刻化すると予想されています。2020年の東京オリンピックに向けて訪日観光客の数がどんどん増えて、宿泊需要が高まる一方。それなのに日本は、民泊解禁などの対応策が、他国に比べて遅れていることがまだまだ多いですよね。訪日客の大半を、ホテルをはじめ宿泊施設で引き受けなければいけない。そのためホテルの建設ラッシュが起きていて、人手不足の深刻化が心配されているのです。

フロント業務や清掃業務など、できるところから、なるべくロボットが担当するようにしなければ、これから追いつかなくなってしまいます。

──フロント係も清掃係もロボット…。人間のスタッフの方々は何をしているんでしょう?

たとえばイレギュラー時の対応です。ご高齢の方や小さなお子さまが急にホテル内で倒れてしまわれた、というような。ロボットが倒れている方と話をして、適切で的確な対応策を判断するのは、まだまだ難しいです。

緊急時の対応を含め、ロボットに教え込めることはいまの段階では限られています。お客さまの求められていることが、ロボットのこたえられる限界を超えたときこそ、人間が出る場面なのではないか。いまはそう思っています。

スタッフがあえて“黒い服”を着ているワケ

──いざというときのために、人間のスタッフの方は待機している、と。

そうですね。料金設定や市場調査といったマーケティング業務、システム面での不具合が出ていないかのチェックやロボットのメンテナンスなど日常的な管理業務、それからベットメイキングのようなロボットにはできない“手仕事”的な業務。それらの作業をしつつも、なにか異変が起きていないか、注意深く見守っています。当ホテルのお客さまのクチコミでよく書かれるのが、「チェックインからチェックアウトまで、人を一人も見なかった」。でも、気づいていらっしゃらないだけで、人間のスタッフは立っています(笑)。あえて気づかれにくい制服にしているのです。

──そういえば、みなさん黒づくめですね。

はい。全身黒色の制服というのは「変なホテル」チェーンで統一されています。これは「人間のスタッフは“黒子”に徹する」というコンセプトにもとづいています。

ホテルにおける主役はだれか。お客さまです。スタッフが目立ってはいけない。一方、ロボットはお客さまの共演者。目立っていいのです。ロボットと一緒にいることで、お客さまに楽しんでいただけますから。私たち人間のスタッフは、お客さまの満足度を下げずに、なるべくお客さまとのタッチポイントを減らして、黒子に徹する。通常の接客はロボットに任せて、イレギュラー時だけ人間のスタッフが対応するのも、黒子に徹しているからこそです。

ただ、「万が一のときでも、人がいるから心配なく泊まれるよね」という安心感は絶対必要。「ロボットしかいないから、万が一、何かあったらどうしよう…」という不安要素を抱えたまま泊まっていただくことは、あってはいけないですから。

ロボット化でスタッフの人数は4分の1以下に

──いまロボットがやっていることを、従来通り人間がやるとしたら、どれぐらいの人手が必要になるのでしょう。逆に言うと、ロボットが導入されていることでどれぐらいの人を削減できているのでしょうか。

ロボットの導入で、スタッフ数を4分の1以下に減らせています。当ホテルのような客室が100室ぐらいある規模ですと、通常は35~40名のスタッフが必要と言われています。そのなかで、当ホテルは通常、7~8名の人数で運営できていますから。

──7~8名ですか! それは大きなコストカットですね。でも、ロボットの導入コストは相当にかかっているんですよね…?

はい、かかっています。導入費用はかなりの金額になります。ただし、それはあくまでイニシャルコストの話。長い目で見れば、人間のスタッフを雇い続けるよりも低コストになります。ランニングコストは定期的なメンテナンス料と電気代ぐらい。微々たるものです。減価償却期間を過ぎれば、どんどん利益が出てきます。

それに、そうしたコスト面のメリットよりも、ロボットによってサービスの質を向上させ、お客さまの満足度を上げることができます。私たちは、後者をより大切にしているのです。

ロボットは設備? ツール? 仲間?

──恐竜型のロボットがエンターテインメントとしてお客さまの満足度を上げているのは、よくわかります。ほかに、どんな面でサービスの質が向上していますか。

たとえばチェックインの作業が、一組あたり平均2分ぐらいで完了します。だからお客さまがフロントで待つ時間が非常に少ない。人間が介在せず、機械的に作業を行うため、スピーディーに完了できるわけです。

──おぉ、それはいいですね! ホテルのチェックインって「待たされる」イメージがありますから。

ほかには、清掃の品質も向上していると思います。清掃ロボットが、毎日決まった時間に、必ず同じルートを通って清掃している。同じ品質が保たれる。そういうスタンダードな部分をロボットに任せて、人間は“エキストラの部分”に目を配り、その部分の清掃だけを引き受ける。役割分担をすることで、全体として高い清掃クオリティを保てています。

──人間が得意なこと、ロボットが得意なこと。それぞれに特化して、役割分担しているんですね。では、人間のスタッフのみなさんにとって、ロボットはどういう存在なんでしょう? エレベーターや掃除機みたいな「設備」「ツール」なのか、それとも一緒に働く「仲間」なのか。

うーん。それは、あまり考えたことがなかった。難しい質問ですね(笑)。フロントという、ホテルにとっていちばん大事な部分を担っていることを考えると、「仲間」に近いかもしれないです。まぁ、「ロボット、今日も元気だな!」とかは思わないですけどね(笑)。


──難しいことをお尋ねして、すみませんでした! でも、ロボットと人間がコラボして、少ない人数で高い顧客満足度を実現していることが、よくわかりました。これは宿泊業界に限らず、未来の「働き方」を示唆しているのかもしれません。インタビューの後編では、「変なホテル」立ち上げの苦労と、ロボット化以外の「働き方改革」の取り組みについて、お聞きします! 

▼インタビュー後編はコチラ!
ロボットが接客する「変なホテル」支配人に、完全無人化ホテルが理想なのか聞いてみた(後編)

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